株式会社テクノプロ
  • TOP
  • 事例
  • 名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター

事例

WORK

エンジニアリング

【産学連携事例】SDV時代に求められる「安全なソフトウェア流通」を追究する

名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター 様

自動車は今や、エンジンやボディといった物理的な完成度だけで評価される製品ではありません。ソフトウェアの遠隔アップデート(OTA)によって機能が追加されることで性能が改善され、セキュリティ対策も更新する“進化し続ける、動くデバイス”へと変化しています。

こうしたSDV(Software Defined Vehicle)の時代において問われるのは、ソフトウェアの利便性ではなくその信頼性です。テクノプロと名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター(NCES)の産学連携プロジェクトは、車載ソフトウェアのサプライチェーン全体を俯瞰し、「信頼できる流通基盤」を設計するという挑戦に取り組んでいます。

プロジェクト概要

本プロジェクトは、車載ソフトウェアのセキュリティ強化を軸に、「安全な更新」「正当な流通」「長期監視」という三つの観点を統合的に捉えていきます。

自動車のソフトウェアは、数千万行規模とも言われる巨大なコードベースで構成されます。

さらに近年は、オープンソースソフトウェアの活用も進み、ソフトウェア部品表(SBOM:Software Bill of Materials)の管理が重要視されるなど、脆弱性への対応は至急かつ不可欠なものになってきています。

本プロジェクトでは SBOMを個別の研究対象として扱ってはいませんが、更新の安全性を担保するには、ソフトウェア構成情報や依存関係の適切な扱いが不可欠であるという認識のもと、より包括的な流通の信頼性について注目しています。

法規対応から「サプライチェーン全体の信頼性」へ

近年の法規制は、企業に「説明責任」を求める側面が強くなっています。これは単なる技術課題ではなくガバナンスの問題でもあります。異なるメーカーが開発したソフトウェアが同一環境で動作する「統合ECU」が普及し、セキュリティ面が大きく変化しました。各メーカーの依存関係は複雑化し、一部の脆弱性が全体へ波及するリスクも高まっています。

NCESの倉地特任教授はこう語ります。
「更新の仕組みを安全にするだけでは不十分です。どの経路から来たソフトウェアなのか、それを証明できることが重要になっています」

本プロジェクトでは、改ざん検知、署名検証、経路追跡、更新履歴管理などを含む多層的なアプローチを検討しています。重要なのは、「安全だった」という事後評価ではなく、「安全であることを証明できる仕組み」を設計することです。

さらに、自動車は長期運用製品です。販売後10年以上、ソフトウェアは更新され続けています。その間に新たな攻撃手法が生まれ、新たな脆弱性が発見されます。したがって、サプライチェーン設計は“未来の不確実性”まで想定しなければなりません。

「安全であることを“後から証明できる仕組み”を設計することが、今回の研究の核心になります」と倉地氏は強調します。

倉地亮特任教授

SDV時代における標準化への挑戦

SDVは単なる技術トレンドではありません。従来、車両価値はハードウェアの完成度に依存していました。現在は、ソフトウェアのアップデート能力が競争力を左右します。つまり、車両は“販売後に進化する、動くデバイス”となりました。

しかし、メーカーごとに更新方式が異なれば、サプライヤーや開発者の負担は増大し、セキュリティ水準もばらつきます。標準化は、競争を阻害するものではなく、共通基盤を整えるための前提条件です。

NCESの高田研究員は語ります。
「SDVの時代では、ソフトウェアが車両の付加価値そのものになります。だからこそ、流通の透明性がより重要になるのです。メーカー依存を減らし、標準的な更新手法を確立することが重要です。それが業界全体の底上げにつながります」

それは、目先の製品開発を超えた、“モビリティ社会のインフラ設計”とも言える取り組みです。

高田光隆研究員

産学連携がもたらす「現実解」と「人材育成」

産学連携は、理論と実務のシナジーを発揮できることが大きな利点となります。大学は未来を見据えますが、企業は現在を支えています。この視座が異なる二つが交わることで、「実装可能な未来」が見えてきます。

テクノプロでチームマネジメントを担う大林はこう語ります。
「企業単独では得られない視点や最新環境に触れられることは、大きな価値です。と同時に、人材育成の場としても重要だと感じています。例えば企業側にとっては、新技術領域への投資リスクを抑えつつ、先端知見を獲得できます。一方で大学側にとっても、理論をビジネスへと接続する機会となります。そして何より、若手人材が“技術を考える立場”へと成長する場になるというのが、テクノプロが産学連携プロジェクトに求めるもう一つの重要事項です」

テクノプロ プロジェクトリーダー 大林

若手エンジニアの成長

当プロジェクトチームに途中から参加したテクノプロの納庄氏。彼女は異業界からエンジニアへと転身しました。

本プロジェクトに配属された当初は、専門用語が飛び交う議論のスピードについていけず、知識不足に苦しむ日々が続きました。自分は場違いなのではないかという葛藤もありました。

転機となったのはポスターセッションを担ったときです。これは図版などを用いて研究成果を一枚のポスターに落とし込み、研究者や業界関係者に向けてプレゼンテーションを行う発表形式です。

「学会ポスターセッションという機会を通じて、自分の理解を一つ一つ深めていきました。発表では、多くの研究者からの鋭い質問にも答えなければなりません。そこは自分の理解が本物かどうかを試される場でもあります。だからこそ、どこが足りないか、何が研究の課題として抽出できるのか、そしてどのように理解するべきかが明確になりました」

ポスター作製時では大学側からも厳しい指摘を受けた夜、悔しさを抱えながらデータ修正したこともありました。それでも翌日には議論の場に立ち続けました。

「多くのご指導を先生方から頂きましたが、ポスターセッションの準備作業を通じて、論点を自主的に整理し、伝える力が身についたと感じています」と納庄は振り返ります。

今、彼女は自らセキュリティ分野でキャリアを築きたいという明確な目標もできました。それは、偶然の配属ではなく、自ら選び取った専門領域です。

テクノプロ 納庄

テクノプロに期待すること

NCESがテクノプロに期待するのは「継続性」です。短期成果にとらわれず、若手を挑戦の場へ送り出し、成長を促す姿勢。現場の知見を惜しみなく共有する風土。そして研究成果を社会実装へと昇華させる実行力。テクノプロが持つ組織的基盤と育成力は、この産学連携を単なる共同研究で終わらせない推進力となります。

倉地氏はこう述べます。
「現場のリアルな課題をテクノプロから共有してもらえることで、研究テーマがより具体化していきます。実践に活かせる研究結果を出すことができるのは、変化に富む自動車業界の未来を見据える上でも非常に重要だと思っています」

終わりに

技術とは「信頼を設計する行為」です。

目立つのは新機能や性能向上かもしれません。しかし、その背後には、流通経路を検証し、更新履歴を管理し、未来の脆弱性まで想定する地道な設計思想があります。
4年前のプロジェクトテーマは更新の安全性。今は流通の信頼性へ。次のテーマはおそらく、“社会全体で支えるセキュリティインフラ”へと進化するでしょう。この産学連携プロジェクトは、モビリティ社会の未来に向けた共同投資です。

その成果は目に見える機能だけではありません。 “安心して乗れる社会”という形で現れるのです。

名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター
名古屋大学大学院情報学研究科附属 組込みシステム研究センター(NCES) は、組込みシステム技術と人材への強い産業界ニーズに応えるため2006年に設立された研究・教育拠点であり、産学連携を軸に実用化指向の研究と高度技術者育成を進めてきました。設立以来、AUTOSAR や車載セキュリティなど先端領域の共同研究を推進し、ものづくり産業を支える技術革新に寄与し続けています。
https://www.nces.i.nagoya-u.ac.jp/

サービスに関する
お問い合わせはこちら

お問い合わせ

お問い合わせ

CONTACT