「2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)」の大阪ヘルスケアパビリオンにて、注目を浴びているコーナーがあります。
それは誘電センサ素子インソール(靴底の中敷き)。自分の気付かない姿勢変化の気付きに効果的として体験希望者が行列を成すほどの人気となっています。

<AIインソールの体験展示を行っている大阪ヘルスケアパビリオン>

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト

この技術の起点となったのは愛知県に本社を置く自動車部品メーカーが開発した人工筋肉。
このセンサのアプトプットとして国立大学医学部とのプロジェクトを進める上で、テクノプロのデータサイエンティスト・中井克典もプロジェクトメンバーとして加わりました。

初期段階の検討を経てもう一人、中井から抜擢されたのが当時、新卒入社1年目の角谷でした。
ここでは、テクノプロとしてどのような価値を提供できたのかを紹介します。

プロジェクト概要

柔らかなセンサを埋め込んだインソールにより、装着した人の足のつき方によって微妙な負荷を計測し、健康リスクの早期発見と介入につなげられるAIクラウドを構築した。「ヘルスケアプロダクト」としてさらに開発を進めている。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト

医療に活用できる方法を提案する

データと向き合い、試行錯誤を繰り返すことで見えてきた「未病」分野での実効性

昨今ではスマートフォンやウェアラブル機器の生活への浸透とともに、医療機関に頼らないセルフケアという考え方が注目されている。しかし、健康志向がある人でも、普段の生活の中で自分の体力や行動についてデータ化し、そのデータを健康管理に直結させる試みは大きくは進んでいないのが現状だ。

そこで今回のプロジェクトでは、データ素性の評価からデザインパターンの検討、トライアル&エラーを迅速に繰り返し、ビジネス化の目途を早期に確認することを初期の到達点として設定した。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト
<左より、中井、角谷>

スムーズに遂行するため、角谷を抜擢した経緯について中井はこう話す。
「本プロジェクトのきっかけは、国立大学と依頼主との研究開発において依頼主が着手したAI開発の相談でしたが、そもそもデバイス自体が新規性のある人工筋肉を扱います。

そのハードウェア特性を正しく理解し、かつデータ解析やIoTにも通暁している必要があり、センサ技術に詳しい人材がプロジェクト内にいなかったため社内で探したところ、適任となりうる人材がいました。それが角谷だったのです」


誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト
<入社1年目で
プロジェクトに参加した角谷>

しかし角谷は新卒入社1年目。入社後研修を終えたばかりの状態だった。

「私がこのプロジェクトに配属されたのは社会人1年目で、正直、不安しかなかったですね。大学でセンサの研究をしていたとはいえ、それが本当に会社の役に立つのかどうか、全然見えていなくて。右も左もわからず、まずは目の前のことを乗り越えるので精一杯でした」

そんな角谷の気持ちについて、中井はこう語る。
「配属されたばかりだとやっぱり戸惑います。でも角谷はプロジェクトを懸命に進めていくうちに、自信持って動けるようになってきたということは客観的に見ても感じられました。自分の意見で改善提案して、それが上司に認められて、しっかり成果にもつながっていくという一連のプロセスを幾度も経験することで、開発者としての自覚が芽生えてきたのかなと思いました」
自主的に動いていくことで、自分自身の価値や開発のやりがいを徐々に会得していったという。
角谷はどのように思っていたのだろうか。

「このデータじゃ使えないよなと思うような部分が最初は本当に多くあり、まずはそこを何とかしたいと自分なりに課題を整理していきました。改善を重ねていくうちに『自分の力がプロジェクトに貢献できている』といった実感を持てました。そのきっかけになったのが、やっぱりこのインソールでした。柔らかい素材を使うことで、足裏のどこにどれだけ力がかかっているかを可視化できる。それをヘルスケア分野で活用するっていう取り組みは、社会貢献に直結しているなと思ったのです」
人の歩き方は健康状態や痛みの有無で微妙に変わる。そういう違いがデータとして捉えられる。しかも金属のセンサと違い、違和感なくインソールに入れられるからこそ、自然な歩行データが取れるという強みがあった。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト
<AIインソールを手に語る中井>

中井は語る。
「そのデータを積み重ねることで『この人、もしかしたら片足に負担が掛かっているのではないか?』とか『怪我の予兆があるかもしれない』っていう判断材料になります。

もちろん、それだけで病気の診断まではできませんが、病院に行くきっかけをつくるには十分な情報になるでしょう」

データサイエンティストの役割

開発現場とユーザーとの翻訳者になり、本質を伝えていく。

プロジェクトを進める中で、苦労したことは?という質問に中井はこう答えている
「データサイエンスは仮説と検証を繰り返すことで成り立つ分野です。そこで得られたデータを検証し、私たちの開発は正しい方向に進めているという実感が出てきます。しかしその一方で、研究ではなく、企業様と一緒にプロダクトの開発を行っているからこそ納期もあります。だからこそ質より時間が優先されて精度を突き詰めるのが難しくなる局面も多いのです」
角谷はこう語る。
「理想を言えば、もっと丁寧にモデルを組んで、時間かけて調整したいです。しかし2週間で廻した結果で次を判断したいという局面もあります。AIは見えない部分が多いからこそ、開発側やユーザーへの成果の伝え方についても工夫が必要だと感じています」
中井はデータサイエンティストの役割についてさらに続ける。
「その点で言えば、私たちの役割は『翻訳者』だと思いますね。開発現場の言葉とエンドユーザーの言葉、どちらも理解して、それをお互いに伝わるように言語変換する。そうすることで、最終的にはニーズに沿ったより良いものが作れるようになると思います。お客様がやりたいことと、本当に必要としていることは、実は微妙に違うことがあります。その本質を見極めて、方向性を一緒に作っていくのが私たちが携わるプロジェクトの醍醐味でもあると思うのです」。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト

AIインソールの体験展示を行っている大阪ヘルスケアパビリオン

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト

設置しているインソールに乗るだけで身体の状態が検知できる。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト

体験希望者に説明を行う角谷。

「大阪・関西万博」でも展示

今回のプロジェクトの成果は、2025年4月から開催されている「2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)」の大阪ヘルスケアパビリオンにて展示され、AIインソールの体験を希望する方が行列になるほどの人気を博している。
展示について中井はこう語る。
「注目いただけると本当に嬉しいですね。人の歩き方のデータはヘルスケアだけでなく、姿勢改善やスポーツパフォーマンスの向上にも応用できます。このシステムが持つポテンシャルは、本当に無限大なのです。それを広く知っていただければ次のプロジェクトテーマにつながるかもしれません」

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト
角谷は当プロジェクトを経て、自身のキャリアパスについて新たに描いていることがあるという。

「将来的にはセンサからデータ分析、サービス化まで一気通貫ででき、データサイエンスの知見を併せ持つエンジニアになりたいと思っています。このプロジェクトは、キャリアパスを明確にする大きな一歩になりました」

最後に

AIの技術的進歩は非常に速い。しかしAIをどのように使うべきか、その判断は人間に委ねられている。だからこそ、「何のための開発か」「誰にとって幸せにつながるのか」といったモノづくりの原点に立ち、その本質をブレることなく伝えていくことも、テクノプロの大きなミッションになっている。ヘルスケア領域もまだまだAIは未開拓の分野。今後の未来の可能性をどのように拓いていくか、テクノプロはお客様ととともに追求していく。

誘電センサインソール(靴底の中敷きプロダクト)を活用した ヘルスケア業界向けサービス開発プロジェクト